3日目の朝を迎えた。
どうか、膝や筋肉痛、マメが治っていますように、という願いのもと、足を動かしてみたら、やはり治っていなかった。
とうとう、”アレ”をする日がやってきたーー
そう思い、友人から安全ピンをもらう。マメの水を抜くことにした。
昨日の終盤で破裂したマメのほかに、数箇所マメができていた。そこにもやはり水は溜まっていた。これから歩く際に、増大し、昨日のように破裂してしまうくらいなら、小さいうちから抜いておいた方がよい。そう判断した。だが、下手なことをしてしまうと炎症や感染症を引き起こす恐れもある。そのため、アルコールで針先を消毒し、少しずつ水を抜いた。そのマメに、丁寧にワセリンを塗り、絆創膏を貼る。
筋肉痛については、相変わらずサロンパスで対処した。
さらに、日本からテーピングを持ってきた。まともに運動経験のない私からすると、半永久的に使うことはないだろうなとは思っていたこのテーピングだが、足を捻挫した時や、テーピング以外の用途にも使えるだろう、ということで購入していたものだった。このテーピングが、今後の巡礼に向かう際の、お守り以上の、非常に強い味方となるが、当時の私はまだ知らない。
スマートフォンで検索し、ヒットしたサイトにアクセスして、見よう見まねで膝のテーピングをしてみる。初めて、自分の脚にテーピングを施すものだから、最初に貼り付けたテープはしわだらけになってしまった。それでも、なんとか痛む膝を覆うテーピングが出来上がる。そして、足の裏の負担を軽くするために、土踏まずを覆うものや足首の痛みを防ぐために、と、念には念を入れるようにテーピングした。
テーピング後、きちんと固められたような感覚。何もテーピングしていない時よりも、格段に歩きやすかった。これなら、今日は大丈夫かもしれない。
念には念を入れた準備が終わる。朝ごはんを食べたのち、出発した。
この日は10km強を歩く程度で、1日目や2日目ほどの苦道を強いられることはない。
宿泊した町から出る道は、長い下り階段に差し掛かった。私らが歩く前に、1日目、2日目と見かけたおじさんが大きな煙をふかしながら歩いていた。
階段を下り終えると、相変わらずの道なき道をひたすらに歩く。
歩く。歩く。
今日は膝にテーピングを施したため、膝の負担こそないのだが、この分だけ股関節に負担がかかることに気づいた。そして、一歩一歩踏み出すごとに、股関節だけでなく骨盤全体に衝撃がのしかかる。足の裏はというと、今朝水を抜いたマメが痛み出した。
だが、不思議なことに、一度歩き出すと、歩く以外の動きができなくなる。体が知らず知らずのうちに慣れたのかもしれない、なるべく最小限のエネルギーで動かすようにプログラミングされているようだった。このせいで、今日の休憩は短めとなった。
途中、地元の人が黒いトイプードルを散歩に連れていく様子を見かけた。この犬、突然走り出すと思ったら、ピタッと立ち止まり、場所を選ばず用を足した。私らがふふッと笑ってしまうと、飼い主もふふッと笑った。
歩く。ひらすら、歩く。
途中、道なき道で、昼ごはんを食べた。この巡礼路には小さな町や集落が点在しており、レストランやバルもあるのだが、オフシーズンだけあって、どこも閉まっている。そのため、このたびの巡礼中の昼ごはんは、前日に泊まった町のスーパーで購入したパンやジャムを持っていく。スペインの地方のスーパーは、日本のそれとは違って、お惣菜などが販売されているわけではない。すぐに食べられるものといえば、パンが販売されているくらいだった。もちろん、日本のような惣菜パンではなくて、クロワッサンやチーズフランスなどシンプルかつ長持ちしそうなものがほとんどだ。
昼ごはんを食べている途中、男子中学生くらいのグループがやってきた。「オラ」と挨拶してみると、「オラ!!!!」と感嘆符が4つも出てくるほど元気に挨拶をしてくれた。中にはマッスルポーズをして「ブランカミーノ!」とニコニコの笑顔で挨拶をしてくれた男の子。どこの場所に行っても、10代中盤の男の子たちのエネルギーは溢れているようだった。
昼ごはんを食べたのち、ふたたび歩く。今日は午後2時ごろに町に着きそうだ。
途中、山桜や小さな草花を見かける。この時期のスペイン北部の日中の気温は18、19度近い。最後の坂道に、昼ごはん時にすれ違った中学生グループの中にいた、ちょっとぽっちゃりした男の子がグループからかなりの距離をとって歩いていた。心のなかで「がんばれ、私も頑張る」と小さなエールを送る。
今日は少し早めに、宿泊する町に到着した。先に到着したであろう、1日目と2日目にすれ違ったおじさんはカフェで書き物をしていた。「オラ!」と叫びながら手を振ると、おじさんは親指をたてて「Well Done!」と笑顔で挨拶をしてくれた。
それにしても、テーピングの力は大きかった……。