トイレ格闘、機内にて

当記事が属するカテゴリ「過去旅」では、私が過去に旅した先の思い出をブログ・エッセイ形式で綴っていくものです。基本的には、かつて運営していたブログ(現在は閉鎖済み)で公開していたものを再掲しています。
今回の記事は、2022年11月にひょんなことからインドに1週間近く滞在することになった話。

11月中旬〜下旬にかけ、インドに1週間ほど滞在したことを書いていこう。

どうして、いきなりインドへ?と言われたら、わかりやすくいうと、自分探しの旅に出た、といっても過言ではないと思われる。

航路というと、トランジット(乗り換え)を利用。直行便で行く手もあったのだが、何せ往復で30万くらいかかるもので。インドへの直行便は、現在はJALの1日1便のみ。まあ、ただでさえインドに用がある人なんて商社マンか変態か藤井風かくらいだから、需要はハワイほどないと思われる。

具体的航路は、成田〜クアラルンプール〜デリー

成田〜クアラルンプール

8時間近く乗った気がする。日本から東南アジアなてせいぜい5時間程度かと思っていたのだが、思った以上にかかった。驚いたものの、世界地図を見ると、確かにこりゃ8時間はかかるわな。

機内はというと、日本人は3割程度。でもその大体が、怪しいビジネスをしていそうだな、という風貌をしたおっちゃんだった。クロムハーツにも負けないゴリゴリな髑髏の指輪をしていた、サングラスもいかつい。仮想通貨で一儲けしたのか、はたまた東南アジアで売春ビジネスをしているのか、というとんだ偏見を抱えながら、ビールを3杯おかわりするおっちゃんたちを片目に、トップガンを見た。

機内食ではシーフードカレーか、柚子胡椒チキングリルのどちらかを選べた。私はせっかく外資系に乗っていることだし、シーフードカレーを食べた。うむ。美味なり。

今回はマレーシア航空を利用したので、CAさんたちも麗しい雰囲気を解き放っていた。メイクが可愛い。

そして、クアラルンプールに着く。乗り換え時間は2時間ほど。定刻で着いたものだから、最初は別の便に乗りかけた。

その2時間はというと、免税店を覗きつつ、シュールな赤ん坊が描かれたスナック菓子を購入した。あと紅茶も。

その後、デリー行きの飛行機に乗り、いざ出発。

夜9時ごろに離陸。クアラルンプールの夜景が窓越しに見えた。

ああこれが発展途上国、塵のように細やかな光が集まる夜景を見ていると、その光を照らしているのも人なのか、自分と同じ命を宿して、クアラルンプールという湿地で生活しているのか、と思うと涙が出てきた。こう、日本以外の道路を見ると涙が出てくるのはどうしてなのだろうか。

よくあるチルな気持ちになっていたと思ったら、ほかの乗客は無事に搭乗し空の中へと身を委ねた安心感を感じたのか、機内が騒然とし始めた。我々日本人はほとんど乗っておらず、機内はすでに異国・アウェーと化す。

機内食を運んできてくれた男性CAさんもすでにいい匂いがしていて、「どこの香水?」と聞きたくなってしまった。あと、機内食を渡してくれたとき、「アリガト〜」と言ってきた。

見た目からして、私は日本人であることを、彼らは認識しているのだ。そして改めて、自分は日本人であることを、メタ的に認知したのである。

アウェー空間、生まれて初めて平たい顔の民族の集合体から抜け出して、はじめに感じたのは、後悔だった。

「どうして、私はインドに行こうかと思ってしまったのか…生きて帰れるのだろうか…」

不安を抱え、すこしでも気分を紛らわそうと、機内で配信されている映画のラインアップを見たが、ヒンディー映画だの、マレーシアの映画だのと、よくわからないもばかりだった。その中で、唯一知っていた映画が、「トップガン」。

まさか、こんなところでトップガンがこの機内における精神的支柱になるとは思わなかった。トップガン、おかわり。

飛行機といえば、尿意である。

出発してから1時間半後、クアラルンプールで飲んだ紅茶が私の膀胱を刺激し始めた。

辛い、トイレに行きたい。そう思って、トイレに向かおうとしたが、通路越しでぺっちゃくちゃ喋っているにいちゃんが邪魔であった。くそ、横切りたくない。けれど、尿意。「ソーリー」と片言イングリッシュを言って、むりやり通ってトイレに向かった。

数分待っても、出てこない。なんなら歯を食いしばるようなうめき声がかすかに聞こえるのは気のせいか?

私は、諦めた。インドに着くまで膀胱には頑張ってもらうことにした。通路越しでペチャくっていたお兄ちゃんたちを横切り、席に戻った。残り数時間、私の膀胱は耐えてくれるか。

そして、私の膀胱は見事に無事耐えてくれ、インドに到着。

降りた直後、そそくさとトイレに駆け込んだ。

トイレの目印にしては幾分派手な気もする。壁一面にインド美女。

その後、入国審査へ。

早速インドの洗礼を受けた。インドの人って、よく首を傾げる仕草をするのだが、これは日本人でいう、首を縦に振る仕草、すなわち「同意」といった仕草だそう。

一通りの書類も提出し、指紋認証も終えたところで、審査官は首を傾げた。

え、何かあったのか?と思って立ち竦んでいると、「Go」と行って、出口を指差した。

これがのちに、「審査は通過してるんだからとっとといけ」ということを意味するジェスチャーであったと理解するのは、数日後となる。

無事インドに入国。トイレ、入国審査に続き、またもや衝撃を受ける。

空気が汚い。

埃塵、スパイス、体臭、排気ガスなど、あらゆる匂いが私の鼻を刺激、鼻の穴に細かい塵がダイレクトに入っていく感覚があった。

そして、周りはインドの濃い顔立ちばかり。そして、なぜか空港に耳の一部分が欠けた犬が歩いている。

「私、異国に来たのか」

これまで海外旅行というと、韓国のみだったこともあり、インドという、日本とは正反対の土地に行ったショックは大きかったと思う。

同時に、非日常空間が目の前に広がっていることに、一種の興奮も覚えたのも確か。全く予想がつかないインド滞在。もし犬に噛まれて狂犬病になったとしても、後悔せずに死んでいこう。「関わってくれたすべての人にありがとう。大きな恵みがありますように。お葬式は家族葬で、友人はその後に私の墓にお参りに来てくれ。餃子のお供えとともに。」と心の中でしょうもない遺書を用意し、インド滞在が始まる。